赤い。動脈血の赤だ。 間違って出だしたら止まらない鮮血の色。 今回の『THANK YOU YOSHII KAZUYA』ツアーは そんな印象を受けた。 ロシア語の「赤」には「美しい」という意味があるそうだ。(モスクワ赤の広場も美しい広場という意味を持つ。NHKロシア語会話より)ロシア人が言ってるのはこういう赤じゃないかと思う。YOSHII LOVINSONも赤かったけど静脈血の赤だった。傷口からどろりと滴る黒味帯びた赤だ。そのYOSHII LOVINSONのストイックでどこか鬱々とした音が好きだった私は正直、吉井和哉に戸惑っていた。
しかし今回のツアーではYOSHII LOVINSONの曲も、ソロではほとんど披露されなかったTHE YELLOW MONKEYの曲も、迷いなく潔い吉井和哉の音で響いていた。出し惜しみなんてしない、どこにも遠慮なんてない。その姿に、過去に戻ったんじゃなくて、全部乗り越えて行ったんだと感じた。
2006年12月22日、悔しいくらいに強く美しいロックスターが岡山に降臨した。
開演の2時間以上も前から会場前には人垣ができていた。その中には白いコートのお姉さんに、おしゃれ眼鏡のお兄さん、子連れの美人妻に、上下黒皮のおじさんがいる。白髪にパーマのどう見ても70代のおばあさん、家族連れもいる。
みんな吉井和哉の音に狂いに来たのだ。
客電が落ちるとステージの電飾画面にはKREVAのオープニングコール。その画面をバックに彼の影が浮かぶと、築44年の岡山市民会館が軋みだした。1階の座席は客が跳ねるたびに上下にふかふかと浮いている。ステージに躍り出た吉井は金髪にサングラス。黒のジャケットに赤いラメのギラッギラパンツ。大きく開いた胸元に十字架が揺れる。左手にはスパンコールがキラキラする白い手袋。右手にはヴィヴィアンの金の指輪。足元はピカピカの黒い靴。
なんて節操のない! でもそれらすべては武装じゃなく、吉井和哉の表皮になっている。日本でこんな格好ができる40歳は吉井和哉しかいない。まさにロックスターの登場だった。
頭の曲『I WANT YOU I NEED YOU』からいきなり飛ばしている。曲に合わせた吉井の振りにオーディエンスもすばやく反応、踊る、踊る。吉井は最前列の観客の手を取りキス! 悲鳴のような歓声が起こった。続く『LIVING TIME』でも「この手でよかったらいつだって掴まれ!」と歌いながら観客の手を握る。立て続けにニューアルバム『39108』からのアッパーなロックチューンで、一気にオーディエンスをキラキラの吉井の世界に引っ張り込んだ。
「すげえな岡山。やべえ、やりがいがある。全部出す」といううれしいMCをはさみ、『人それぞれのマイウェイ』『LONELY』を確信的な強い音で歌いあげる。左うしろの白い服の女の人が泣いていた。
「ちょっと考えごとをしていた時の曲です」と紹介されて始まったのは『CALL ME』。そして『20 GO』とYOSHII LOVINSONの楽曲が続いた。空を指刺す姿に、赤いライトがよく似合う。YOSHII LOVINSONの陰りと湿り気を艶やかにアレンジし、魅せる。
カバーの選曲も最高。The Rolling Stonesの『Paint It,Black』、The Beatlesの『And you bird can sing』と往年のロックナンバーを吉井色に染め、音が重く弾む。文句なしに楽しい。
中盤に差し掛かるとロックスターの仕種(しぐさ)で吉井が上着を脱ぎ捨てた。来た!みんなこの瞬間を期待していたに違いない。THE YELLOW MONKEYの『SPARK』が鳴り始めた。スーテージで暴れ、倒れ込んだ吉井にオーディエンスの手が伸びる。会場が興奮であふれる。
そして歌詞に「晴れの国!」を織り交ぜて『WEEKENDER』。疾走感あふれるサウンドは吉井の運転するトラックの荷台に乗せられている感覚だ。続くMCで「週末に楽園に行くぜ」といって始まった『楽園』。THE YELLOW MONKEYでもなくYOSHII LOVINSONでもない吉井和哉の楽園にオーディエンスは体揺らしてのめり込んだ。またアコースティックギターの弾き語りでの『TALI』も圧巻。しっとりとした歓喜の拍手が沸いた。
その後も『バラ色の日々』『LOVE LOVE SHOW』とTHE YELLOW MONKEYのヒットナンバーを惜しげもなく披露。オーディエンスの盛り上がりも最高潮となり、大合唱で喜びをステージに伝える。隣で寡黙にギターを弾く THE YELLOW MONKEY時代からの戦友・菊地英昭の笑顔も印象的だった。
アンコールは「ホテルで窓拭きのおじさんに全裸を見られた」(どこのホテルだ!)というMCのあと、「盛り上がる大人のバラード」。アコーステックギターの響きにのせて『恋の花』。そしてキーボードのピアノ伴奏で『パール』。伸びのある気持ちのいい声を会場を包み込むように響かせる。ラストを飾ったのは『BELI EVE』。深みのある強い音がまっすぐに届き、オーディエンスは一人ひとり「I BELIEVE IN ME」という言葉を受け取っているようだった。
アンコールを含めた23曲。「みなさんの魂の横にちょこんと座って歌っていたい」と言っていた吉井に魂の真ん中にどかっと居座られてしまった。「全部出す」の言葉通り、今持っているものを全部見せてくれたようなステージだった。
本当に、サンキュー吉井和哉!
追記
同行のカメラマンji:naが「吉井和哉を撮るのを夢見てカメラマンになった」と言うのを聞いてデヴィッド・ボウイを撮ったカメラマン ミック・ロックが「いい写真には被写体への愛がある」と言っていたのを思い出した。ji:naの写真には吉井和哉への愛がある! 強く美しい写真になっていると思う。
(文・森國愛子) |