映画が自分を映す鏡だとしたら、この作品はとても映画的だと思う。
森田芳光監督、13年ぶりのオリジナル作品! うれしいじゃないですか!
「HAL(ハル)」で、パソコン通信がメジャーになる前にコミュニケーションのあり方に目を向けた監督が、この作品では「お金」にフィーチャー。
監督にはこれまで3回インタビューさせてもらっていますが、アンテナの感度の鋭さにはいつも驚きます。
この映画を観る前にプレスを読んだのですが、そこに書いてあったプロデューサーの言葉に高揚しました。
「昨今の日本映画は、極めて明快に物語がわかりすぎてしまい、余韻を生まない。鑑賞後感を持つ映画を目指した」(大意)。
こういう作品に渇望している映画ファンも多いはず。
分かりやす過ぎない描写は「難解」で終わるものではなく、観る人の思考を、ひいては心を活性化させてくれる。
この「わたし出すわ」は、まさに「心活性化ムービー」。
小雪が演じる主人公のマヤは、旧友に大金を差し出す。そのどこか達観した佇まいは、「すべてを知っている、理解している」ように感じさせる。
そのかもし出す空気感が、マヤがそれまで本当にいろんな経験をして心を動かしてきたんだろうと想像させるのです。
その一方、「分かっていながら、感情に抗えない」という弱さを見せる一瞬の彼女の表情に、「人間味」が垣間見られ、それが観客をグッと物語にひき寄せるんです。
映画の中盤まで、「悪い人が、ひとりも出てこないな」と…。その次の瞬間から、いろんなものがほころび、うごめき始める。
この展開が、北海道のちょっとスモーキーな風景にマッチして、常に気持ちが小さく揺れている状態が続くんです。でも、その先に「希望」の匂いを残してくれる優しさに、この映画を好きにならないではいられない。
お金が人間を観るバロメーター(本当は、こんな軽い言葉を使いたくない)だとしたら、この映画はやっぱり鏡だなと。
映画らしい映画に出合いたい人、激しくおすすめです。