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アート作品設置で観光課題を解決へ。 地元を巻き込んで進めた牛窓パブリックアート整備事業
- 対談記事
瀬戸内市役所 成長戦略部 観光文化戦略課

地域の魅力創出の一環として、瀬戸内市は2023年度から2年にわたり、牛窓地区にパブリックアートを整備しました。目指したのは、アートそのものを目的地にするだけではなく、作品をきっかけに牛窓を巡り、地域で過ごす時間や消費を増やしていくこと。
ビザビは本事業を受託し、アーティストとのパイプが豊富な瀬戸内アートコレクティブと連携。アーティストの選定から作品設置、周遊施策、プロモーションまでを一体で企画しました。
地域の子どもたちや事業者、クリエイターを巻き込みながら、アートと地域との接点をどのようにつくっていったのか。瀬戸内市、瀬戸内アートコレクティブ、ビザビの3者で対談を行いました。
ビザビは本事業を受託し、アーティストとのパイプが豊富な瀬戸内アートコレクティブと連携。アーティストの選定から作品設置、周遊施策、プロモーションまでを一体で企画しました。
地域の子どもたちや事業者、クリエイターを巻き込みながら、アートと地域との接点をどのようにつくっていったのか。瀬戸内市、瀬戸内アートコレクティブ、ビザビの3者で対談を行いました。
—観光客数だけを追わない。牛窓の魅力を「滞在」につなげるアート
牛窓パブリックアート整備事業はどのような目的で始まったのでしょうか。
- 瀬戸内市
- 本事業は、国内外からの観光誘客、地域周遊の促進を目的にスタートしました。単純に観光客数を増やすというより、牛窓に来ていただいた方に地域を巡ってもらい、滞在時間を延ばし、地域での消費につなげていきたいという考えがありました。
そこで、「日本のエーゲ海」と呼ばれる牛窓の景観を生かしながら、訪れる目的の一つとなり、さらにSNSを通じて牛窓の風景そのものも発信してもらえるものとして、「アート」が適しているのではないかと考えました。
本事業の企画提案に参加するにあたり、どのようなことを重視しましたか。
- ビザビ
- 瀬戸内市さんから提示された仕様書では、ターゲットは20代~40代の女性で、「映え」と「周遊」が重視されていました。しかし、ただ単に「映える作品を設置する」だけでは牛窓でないといけない必然性が薄れてしまいます。
そこで、「映える」とはどういうことなのかを、没入感、時間帯による見え方の変化、象徴的な構図、思わず写真を撮りたくなる体験性などに分解しました。
そのうえで、作品そのものだけではなく、その作品を通して牛窓の海や空、町並みまで魅力的に見えることを重視し、作品や設置場所を考えていきました。 SNSで目に留まる「映え」は、あくまで牛窓を知ってもらうための入口です。写真を撮って終わりではなく、作品をきっかけに牛窓の景観や歴史、産業、そこで営まれている暮らしにも関心を持ってもらうことまでを意識していました。
具体的に、意識していたのはどのようなことですか。
- ビザビ
- 牛窓の夕日は、県内でも有数の絶景だと思っています。穏やかな海と瀬戸内の島々、行き交う漁船ののどかな音、そして夕景が組み合わさることで、現実から解放されて無心になることができ、自然と切なくて懐かしい気持ちになって、時間を忘れて海を眺めてしまいます。
そんな唯一無二の情景を邪魔することなく、アクセントになるような作品を設置することで、一枚の光景の中に入ってみたいと直感的に感じてもらえるようになればいいと考えていました。
—行政とアーティストの間をつなぐ。それぞれの専門性を持ち寄った体制
「アート」という専門性の高い案件を、どのような体制で進めたのでしょうか。
- ビザビ
- 事業の受託が決まったものの、当社自身がアーティストと幅広いネットワークを持っているわけではありません。そこで、アーティスト選定については、瀬戸内圏域のプロ作家とのネットワークを持つ「瀬戸内アートコレクティブ」に協力を依頼しました。
- 瀬戸内
アート - 当社は「現代アート×地方創生」をテーマに6年前に発足した会社です。瀬戸内圏域で30~40人のプロ作家とネットワークを構築し、パブリックアートの制作や国内外のアートフェアへの出展によるアーティストのキャリア育成支援などを手掛けています。アート作品を制作して売るだけではなく、地域の人々にとって意味のあるものを作りたいと思っていたこともあり、とても面白い事業だと思い協力を引き受けました。
アーティストの選定はどのように進めたのですか。
- 瀬戸内
アート - パブリックアートの制作経験やエリアとの関係性などを踏まえて、候補となるアーティストを選びました。そこから、実際に施工できるか、継続的に対応できるか、そして瀬戸内市が求めている地域のストーリーを作品として表現できるか、といった観点で絞り込んでいきました。
- ビザビ
- アートは、一般的な広告やデザイン制作のように、こちらが完成形を細かく指定してつくるものではありません。「本事業で達成したいこと」と、「アーティスト自身が表現したいこと」。その両方を尊重しながら、一つの着地点を探していく必要がありました。
- 瀬戸内
アート - アート制作ならではの難しさもありました。例えば「港風のサーカス」では、当初アーティストから廃材を使う案も出ていました。ただ、「美しい自然景観が牛窓の魅力である」という瀬戸内市側の考えもあり、対話を重ねながら現在の形へ調整していきました。
今回、ビザビと瀬戸内アートコレクティブが連携して進めたことには、どのような意味がありましたか。
- ビザビ
- アートの専門性を持つ瀬戸内アートコレクティブさんと組むことで、自社だけではできない領域まで提案の幅を広げることができました。一方でビザビは、行政との調整や地域とのつながり、プロモーションなどを担うことができます。それぞれの専門性やネットワークを持ち寄り、事業に必要な体制をつくれたことが大きかったと思います。
—アートを「点」で終わらせない。作品を牛窓を巡るきっかけに
完成した作品の特徴を教えてください。
- ビザビ
- 2023年度には前島港に、目をモチーフにした造形が特徴の「The Reflective eye」を設置しました。2024年度には、牛窓ヨットハーバー南側の公園に、見る人や周囲の景色が映り込む球体が印象的な「港風のサーカス」を設置しました。いずれも作品単体で完結するのではなく、牛窓の美しい海や空、町並みと一体になって楽しめる作品となっています。
- 瀬戸内
アート - 作品にはそれぞれ、牛窓という地域だからこそのストーリーを持たせることを大切にしました。
例えば、前島港に設置した「The Reflective eye」は、当初はより独立した造形物としての構想もありました。ただ、実際に現地を見て、瀬戸内市やビザビと対話を重ねる中で、牛窓の漁業や、この場所から見える景観を作品の中に取り込んでいきました。 漁業で使われる素材をモチーフに取り入れながら、作品の開口部から対岸の牛窓本土やオリーブ園を望めるよう設計しています。ただ作品そのものを見るのではなく、作品の中に入り、フレームを通して海や島々を眺めることで、牛窓の雄大な多島美や静かな時間の流れを感じられる作品になりました。
「港風のサーカス」も、牛窓ヨットハーバーならではの強い海風や夕陽、船が行き交う風景を生かし、風や光の移ろいによって表情が変わる作品となっています。制作にあたっては、かつて港町、そしてマリンリゾートとして発展してきた牛窓の開放的な雰囲気にも着目しました。
【The Reflective eye 作者:金孝妍 氏】「視点によって、ものの見え方が異なる」ということをテーマに制作。観る人の立ち位置や知識・思考によって変化する様子を、象徴的な幾何学的形で表現しています。
【港風のサーカス(Harborwind Circus) 作者:usaginingen(ウサギニンゲン)氏】瀬戸内海に面した牛窓の豊かな自然、空と海、木々や鳥たちの調和とそこに暮らす人々の温かな暮らしや、訪れる人たちの心を躍らせる期待感を共に表現したいという思いが込められています。
作品を「置く」だけで終わらせず、周遊につなげるためにはどのような取り組みを行いましたか。
- ビザビ
- 作品を設置するだけでは、興味を持った方がインターネットで検索しても、それぞれの作品に関する情報が点在しており、全体像が分かりにくいのではないかという課題がありました。そこで、牛窓オリーブ園に元々設置されていたハート型のオブジェ「ランデヴー」と合わせ、3つの作品を一つの観光資源として分かりやすく発信し、「牛窓×アート」というテーマを一体的に伝えるため、タイトルやロゴ、Webページの制作を行いました。その中で、この取り組み全体を象徴する名称を『牛窓アートハルモニア』としました。
「Harmonia」はギリシャ語由来の「調和」を意味する言葉。「日本のエーゲ海」と称される牛窓にちなみ、命名しました。
—「知らないうちにできたアート」にしない。2年目は地域と一緒につくる
本事業は2年間行われました。2年目となる2024年度は、前年の課題を踏まえたチャレンジもあったそうですね。
- ビザビ
- 2023年度に作品を設置した際、地元の方にとっては「知らないうちに地元にアートができていた」という印象もあったと感じています。せっかく地域の魅力を高めるためにつくるのであれば、完成してから知ってもらうだけではなく、制作の段階から地域の方に関わってもらいたい。それが2年目に強く意識したことです。
2年目の新たな取り組みとして、近隣の子どもたちに作品のテーマからイメージした絵を描いてもらい、アーティストがそこから着想を得ながら作品づくりを進めました。また、作品撮影には牛窓で活動するカメラマンに参加してもらい、完成時にはメディア向けの発表だけでなく、地域住民を招いたアートパフォーマンスを実施しました。
完成を記念して、地元住民向けに作者によるライブパフォーマンスを実施。
- ビザビ
- 他にも、アートスポットの近くで店舗を運営する珈琲店にご協力いただき、作品をイメージした限定メニューを開発しました。「アートを見るために牛窓へ行く」だけでなく、「お茶をしに行ったら、近くにアートがある」という入口をつくることで、アート以外を目的に訪れた方にも、地域を巡るきっかけをつくりたいと考えました。
「港風のサーカス」をモチーフにしたスカッシュ。作品が牛窓の海や太陽の光に反射するように、作品全体のきらきら感をドリンクに入れた寒天や炭酸の泡で表現している。
地元の方々の反響はいかがでしたか。
- ビザビ
- 子どもたちも普段接することのないアーティストと交流できて楽しそうでしたし、地元向けのお披露目会では、想像以上の方に来ていただきました。
限定メニューの協力をお願いした珈琲店も、地元のためになるような行政事業との連携にご満足いただけていました。 - 瀬戸内市
- 行政が作品を設置するだけでは、地域との接点はなかなか生まれません。地域の方や事業者にも関わってもらいながら形にしていただけたことは、民間のネットワークを生かした取り組みだったと感じています。そういった点で、ビザビさんからは新たな提案をたくさんいただきましたね。
- ビザビ
- 「アート作品を設置する」という業務にとどまらず、その先にある「地域を巡ってもらう」「牛窓の魅力を知ってもらう」という本来の目的に立ち返り、仕様書にないことも含めて提案をさせてもらいました。地域の企業やクリエイターとのつながりを生かして形にできたのは、地域で仕事をしてきた当社ならではの部分だったと思います。
—3つのアートを、これからも地域に根づく存在へ
2年間を振り返って、本事業を瀬戸内市としてはどのように評価していますか。
- 瀬戸内市
- 行政だけでは持っていない民間のネットワークを生かしながら、作品だけでなく、その背景にある風景や漁業など、牛窓の文化まで含めて楽しんでもらえるスポットにしてもらえたと感じています。アーティストや地域の事業者など、さまざまな方と連携しながら形にしてもらえたことは、民間事業者にお願いしたからこその部分だったと思います。
実際の事業の成果についてはいかがですか。
- 瀬戸内市
- 牛窓を訪れた方が「せっかくだからもう一つの作品も見てみよう」と複数のスポットを巡るなど、滞在時間を延ばすきっかけになっています。また、アートを通して、「牛窓ってこんなにきれいな場所だったんだ」と景観そのものを改めて見てもらうきっかけにもなっていると感じています。そうした点では、当初目指していたことには一定の手応えがあります。
地域や観光への効果だけでなく、参加したアーティストにとっても、本事業は新たな挑戦につながったのでしょうか。
- 瀬戸内
アート - そうですね。今回の事業は、参加したアーティストにとっても新たな経験や実績につながったと思います。
「The Reflective eye」を制作した金孝妍さんにとっては、前島港という公共空間に作品を制作・設置した実績が新たなポートフォリオとなり、その後、岡山県内外へと活動の幅を広げています。国際展への出展候補として声がかかるなど、作家として次のステップにつながる動きも生まれています。
また、「港風のサーカス」を制作したusaginingenさんにとっても、大型のパブリックアートを手掛けたことは新しい挑戦でした。それまでの劇場などでのパフォーマンスに加え、公共空間でのインスタレーションという表現領域が広がり、その後は高松市美術館でもインスタレーション作品を展示するなど、活動の幅を広げています。
地域に作品が残るだけでなく、この場所での制作経験がアーティスト自身の次の活動にもつながっていく。そうした循環が生まれることも、このような事業の一つの意義だと感じています。
3つのアートスポットが完成した今、次はどのような展開を考えていますか。
- 瀬戸内市
- 3つのスポットができ、まずはそれらをどう継続的に活用していくか、成果を見極めている段階です。今後は継続的な情報発信に加えて、周辺の美術館などとの連携も考えられます。観光客に巡ってもらうだけでなく、地元の方にも日常の中で親しんでもらえる場所にしていければと思います。
- ビザビ
- 作品をつくって終わりではなく、その後も地域の中でどう使われ、どう人との接点を増やしていくか。私たちとしても、地域の方が日常的に親しめる場所になるよう、今後の活用まで一緒に考えていければと思います。
—対談メンバー
田中 綾乃
瀬戸内市役所 成長戦略部 観光文化戦略課
片倉 恒
株式会社瀬戸内アートコレクティブ 代表取締役
